乾乳期のカルシウムコントロールを用いた周産期疾病の予防

乾乳期のカルシウムコントロールを用いた周産期疾病の予防

 低カルシウム血症は、分娩後カルシウム(以下Ca)が乳汁に利用され、血中Ca濃度が低下することで起こる代謝障害です。
 原因は、いくつかありますが、その一つに乾乳期のCa給与と制限を適正に行わないことによって、分娩前後に骨から血液のCa供給機能が迅速に働かないことが挙げられます。
 低カルシウム血症は他の周産期疾病の引き金になるため、乾乳期のCaの適正給与が必要です(図1)。そのため、今回は乾乳期のCa給与の調整による周産期疾病の予防方法について紹介します。

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図1 低カルシウム血症から引き起こされる疾病(D.Beed;Dairy Science Update OCT. 1996改変)

 

 

1 乾乳後期のCa制限給与とは

 

 

 乾乳後期のCa制限給与とは、分娩前にエサのCa濃度を意図的に低くすることで、骨からのCa供給機能を活発化させる方法です。方法は次の通りです。
(1)乾乳期の群分け
 乾乳前期と後期の給餌内容を変えるため、乾乳牛を前後期の2群に分けます。
(2)乾乳前期にCaを蓄積
 乾乳前期はCa資材の給与により、Ca蓄積期間とします。
(3)乾乳後期にCaを制限
 乾乳後期はCa資材の給与を止め、Caを制限します。
(4)ミネラルバランス
 CaとP、MgとKのバランスを調整することで、分娩後のCa供給を促します。ミネラルバランスのガイドラインは表の    とおりとなっています。エサ設計される際の参考にして下さい(表1)。
(5)注意点
 2番草やマメ科の多い粗飼料はCaが高くなりやすいため、給与する際は、粗飼料分析値を確認する必要があります。
 また、配合飼料はCaが低く、Pが高い乾乳用配合飼料の給与が望ましいです。

表1 乾乳期の飼料中のミネラルバランス

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2 事例紹介

 A農場は乾乳前後期に炭カルを飽食させ「Caを制限しない低カルシウム血症対策」を行っていました。しかし、飽食では摂取量に個体差が出てしまい、分娩後の低カルシウム血症からの第四胃変位が多発していました。
 そこで、乾乳前期は炭カルの飽食を行いCaを高め、乾乳後期は炭カルの飽食を止めてCa濃度の低い乾乳用配合飼料を給与することで、「Ca制限給与」に変更しました。さらに、粗飼料分析値に基づき、ミネラルバランスに注意して飼料設計を行いました。例えば、粗飼料のK濃度が高い場合、積極的にMgを給与する等を行っています(表2)。
 また、A農場はCa制限給与だけでなく、「過密にしない」「飼槽を空にしない」など、お腹いっぱい食べさせることも大事にしました(写真1)。
 その結果、第四胃変位の疾病率が8%から1%と大幅に減少しました。

表2 A農場のCa制限給餌へ変更後のミネラル濃度(DM%) 

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写真1 過密にせず、お腹いっぱい食べられる環境

3 最後に

 Ca制限給与は事例に示した以外にも、農場の飼養形態によって異なってくると思われます。個々の農場に適した対策をご検討の際は、普及センターまでご相談下さい。

(令和2年5月作成)

この情報は、2020年5月に釧路中西部支所が地域の農業者向けに発出したものです。

 

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