取組経緯
昨年の冬に、厚岸町の農業者から「草地更新後2年目にも関わらず収量がすごく少ない」、「昨年に比べて大きく減収した」と相談がありました。農業者への聞き取り調査や当該ほ場を確認した結果、ほ場に大量のエゾシカの糞が落ちていたことや山に囲まれた地形であること等から、エゾシカによる食害が収量減少の要因の1つとして挙げられたため、今春からエゾシカ食害調査を開始しました。
食害調査方法
食害の調査方法は、ほ場に2m四方の鉄柵を設置し、エゾシカの侵入を防止した「無被害区」とエゾシカが侵入できる「有被害区」の収量を比較することで食害率を求めました。
また、温度に反応して自動で撮影を行う「ハイクカム」を使用し、エゾシカの出現頻度・時刻・回数などを調査しました。
調査結果
収量調査の結果、1番草で無被害区1,313㎏/10a、有被害区735㎏/10aであり被害率は44%でした。2番草では、無被害区879㎏/10a、有被害区584㎏/10aであり被害率は34%でした。(図1)
また、エゾシカの出現頻度は、1、2番草収穫後と繁殖期である9~10月にかけて飛び抜けて高いことがわかりました。(図2)
エゾシカ被害額の試算
さて、今回のエゾシカ食害を金額に換算するといくらになるのでしょうか?
牧草単価を6900円/t(令和4年度農作物被害調査に用いる農作物の単価より)として、1㏊当たりの被害額を計算しました。
1番草収量は、1,313㎏/10a×10=13.13t/㏊
被害量は、13.13t/㏊×44%=5.8t/㏊
被害額は、5.8t/㏊×6900円/t=40,000円/㏊でした。
2番草収量は、879㎏/10a×10=8.79t/㏊
被害量は、8.79t/㏊×34%=3.0t/㏊
被害額は、3.0t/㏊×6900円=20,700円/㏊でした。
以上のことから1㏊当たりの年間被害額は、40,000円+20,700円=60700円/㏊でした。(表1)
1番草 | 2番草 | 1+2番草 | |
---|---|---|---|
収量(t/㏊) | 13.13 | 8.79 | 21.92 |
被害率(%) | 44% | 34% | 40% |
被害量(t/㏊) | 5.8 | 3.0 | 8.8 |
被害額(円/㏊) | 40,000 | 20,700 | 60,700 |
エゾシカ食害の影響について
エゾシカ食害は、一時的な収量の減少だけでなく、牧草密度の低下による、草地植生の悪化など長期にわたり影響を与えると考えられます。特に新播草地では、エゾシカ食害が後の草地植生・収量に大きく影響するため、電牧の設置等を検討してみてはいかがでしょうか?